このページでは6月21日(土) に富山市立堀川小学校家庭教養講座の概要と考察を発進します。
     

講演「子供の成長を見つめ,見守る家庭教育の充実」
講師 富山大学教育学部教育実践研究指導センター所長 山極 隆 教授



 
○家庭と学校教育との関わりという視点で
 
 夏休みの新幹線で,子供が通路を走りまわっているのを見かける。それを見ても,最近の親は全然気にしていない。人に迷惑をかけているという意識がない。そういう親の増加が学校教育に著しい影響を及ぼしている。
 東京の公立中学校 家庭の教育力の低下のため,学校教育が成り立たなくなっている。教材研究,学習指導は後回しに。しっかりした家庭の子供は私立学校に。→やがて流行は全国に広がる。
 
○週5日制の完全実施(2003年)
 
土曜日は家庭,地域で過ごす。=どんな過ごし方,関わり方をするかによって子供の能力に違いがでる。無目的に過ごすのと,計画的に過ごすのとでは長期的に大きな差ができる。→∴教育を学校だけにまかせる時代は終わろうとしている。
 
○「生きる力」を力を育てるためのスリム化
 
 学校の教育力の充実(教育内容の厳選)(A)
          +
 家庭の教育力の充実(B)
          +
 地域の教育力の充実(C)
          =
 子供の生きる力(ゆとりの中での生きる力の育成)(E)
 
 2003年以降は学校教育のスリム化(時数減,内容減)が図られ,(A)の占める割合がこれまでより小さくなる。家庭や地域が教育に関わりを持たなければ,生きる力は相対的に低下する。すでに週5日制が実施されている欧米では,トータルとしての生きる力を付けるために家庭や地域が役割を果たしているように,我が国でも家庭,地域の力を高める必要がある。
 
○子供の生活の現状(▲は問題点,◎は優れた点)
 
▲ゆとりのない,忙しい生活(塾,部活動など)
▲疑似体験・間接体験が多く,自然・生活・社会体験に乏しい。(親がさせていない。→「家でさえ掃除をさせていないのにどうして学校で掃除なんかさせるんだ」と苦情を言う親の存在。)
▲健康,体力=体位は大きいが,持久力,闘争心に欠ける。
▲社会性の不足=人間関係を結べない。少子化により集団でのルールを学ぶ機会がない。
▲家庭の教育力の低下 子供の願いをかなえたいという思いが先に立ちすぎて,物わかりのよすぎる親になっていないか。過保護,甘やかしがないか。
 父親の母性化=父親は「成績ぐらいなんだ」とおおように構えている方がよい。厳然としていて「生き方」を教える。両親で責められると子供の立つ瀬がない。
◎親よりも優れた資質を持つ
・国際性に富む=中学生のALTとのふれあい。物怖じせずコミュニケーションできる。
・コンピュータなどの新しいメディアに強い。
・ボランティア活動に進んで取り組む。→阪神大震災,島根県沖タンカー石油流出事故人間として大事なものを身につけるメリハリを,学校と家庭の両方で考える必要がある。
 
○家庭の役割
 
 人間形成に最終的責任を負うのは家庭である。
 
 基本的生活習慣,しつけの徹底を図るのは家庭の役割である。この役割を果たすためには,物わかりがいいばかりではなく,だめなものはだめ,という毅然とした態度が必要。
 
 生きる力の基礎を育てるのも,「いつも自分の思うとおりにはならない」ということを口先ばかりでなく実際に体験させるのも家庭である。特に,公正な態度,正義感,品位など人間として生きる意義を,体験を通して感じさせるのは父親の役割である。
 
 家庭の蔵書数は子供の学力と相関関係にある。活字離れによって,国語の点数の善し悪しだけでなく,考える力,推論する力そのものが弱まってくる。(家族で本を読む習慣,雰囲気=自分で学ぼうという意欲,関心の高まり) 親子の共同体験の機会の充実(特に自然の中での)。自然は,人間の思い通りにはならないことを学ぶ。コンピュータに子供の頃からとりつかれるのは,長い人生にとってプラスではない(コンピュータは基本的に人間の言いなりになる)。子供の時期には,自然とできるだけ関わった方がいい。
 
○子供の自己統制力を育てる→ただのびのびさせるだけでは,単なる放任になってしまう。
 
・責任ある行動のとれる子供を育てる。・相手の立場に立って考える習慣を身につけさせる。
・よりよい規律と秩序を維持する。集団の中で暮らすための最低限のモラルは必要である。
・いい意味での競争と併せて,協力,強調することを学ぶ。受験,点数競争ではなく,互いに切磋琢磨し合うという意味で。
・質の高い学力の向上に努める。→学校教育に期待。
 
○自己統制力を身につける 
 
・規則正しい生活を送る。
・自己理解を深める。自分にしていることを客観的に意識する。
・困難に挑戦するさせる。思考力,問題解決能力,意志力を身につけさせる。
・教師が模範を示す。
 そのためには,人間として何が正しいのかを言える教師であることが大事である。子供や保護者との関わりの中で教師も成長する。教育にはそういう双方向性がある。保護者が,子供の前で先生を批判すると,子供は,先生を尊敬しなくなってしまうので,決してしてはいけない。
 
○いじめ,登校拒否について→全国的に増加してきている。
 
・原因:日本があまりにも同質社会でありすぎる。他の家はどうか,他の子供はどうかを気にしすぎる。いじめられないように仲間に入ろうとする。
・年齢横並び主義が多くの競争を生む。→同質社会からの脱皮の必要性 個々を尊重し違いを認め合う。どこの学校に入ったかではなく,自分がどこを選択したかを誇れる強さ,人は人,自分は自分と言える強さを持つことが大切。そういう強さを持ちながら,連帯し協力することが「生きる力」につながる。
 
○高い倫理観を高揚する
 
 日本人の品位を司ってきた倫理観を大切にする。
 我慢する。辛抱する。恥を知る。責任をとる。努力する。自制する。克己する。倹約する。ものを大事にする。けじめを付ける。忍耐する。修養する。
 
○中央教育審議会について
 
・高校・大学入試の抜本的改革が進められている。
 ↓
・大学が子供を選抜するのではなく,子供が大学を選ぶ時代。自分で選択しそこでしっかり学ぶ。
・中高一貫校。ゆとりのある学習の実現。 ただし,大学受験予備校化・小学校からの受験競争激化はさけなければ意味がない。
・大学入試の特例→17歳から大学へ(数学,物理)
         将来は教科を増やし年齢も16歳からに
 
○まとめ
 
 日本には行財政改革,金融ビッグバンなどにおいて規制緩和の波が押し寄せ,様々な分野において選択の幅が増えているが,その分,自己責任も増大している。教育においても,文部省が内容を指導する従来の形から,地方行政主体,学校主体に在り方が変わってきている。
 一方が一方を非難するのではなく,学校教育をよくするためには,どういう貢献ができるかを互いに考えなければならない時期に来ている。



《考察》
「授業参観のつけ足しで話をします」とはご謙遜。今日,会場にいた中で,この方がこれからの日本の教育を動かしている方だと,どれだけの人が意識していたであろう。
 山極先生の講演は,以下に集約される。
 
・家庭の教育力の低下している中での子供の生活の現状
・学校のスリム化が進められる中での家庭の役割
・現代の子供に求められる「生きる力」とは
 
 いずれもきわめて今日的問題であり,中教審をうけて学校が変貌して行くならば,保護者が是非考慮していかなければならない内容ばかりである。話の内容自体は今までにもよく言われてきたことであるが,学校のスリム化をふまえてというところに,今日性がある。
 しかしながら,親の多くは,冒頭のPTA会長のあいさつにあったように,「いい高校」「いい大学」に入り「有名企業」に就職することが,安定した幸せな生活を送ることだと思っているらしい。NTTのような巨大企業でさえもリストラの洗礼をうけ,終身雇用制が崩れ去りつつある。
 
点数を稼ぐ方法ばかり身につけて,自分で考え出したり工夫したりする力の乏しい人間が,将来にわたって果たして幸せな人間となりうるか。これまではそれでもよかったが,その結果どのような状況が生まれてきたか。
 
10年後,20年後も同じ状況にあるといえるのか。未来に生きる子供の姿を考えたとき,真に生きる力を持つ人間というのは,自分の生き方を自分自身で切り開いていく人間なのだということを,できるだけ多くの保護者に気づいてもらわなければならない。「あなた達の信じてきたものは過去の遺物になりつつあるのですよ」と。
 
 今まさに家庭の役割が問われる時代なのだ。

 

 

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