論文報告 No1  このページでは,下記の論文の概要とそれに関する考察を発信します。

小学校における総合学習についての研究
−実践校の分析を中心に−

藤岡 秀樹

岩手大学教育学部附属教育実践研究指導センター研究紀要7号(1997)


目次  《論文の概要》

  1. はじめに
  2. 総合学習とは何か
  3. 伊那小学校の実践
  4. 泊小学校の実践
  5. 奈良女子大学文学部附属小学校の実践
  6. おわりに

     《笹原の考察》


《概要》

1 はじめに

 中教審答申で,総合学習の必要性が提起されている。「総合的な学習の時間」の在り方を考える際には,これまでに実践されてきた総合学習の内容と成果を分析する事が必要である。本論文では,小学校における総合学習の実践校の実践を分析し,成果と課題を検討する。


2 総合学習とは何か

 総合学習は以下の3タイプに分類される。

@従来の教科等の枠にとらわれず,様々な内容を取り込みながら,子供たちの願いや求めに基づいたテーマを追究する学習。
A教師があらかじめ内容の重要性(価値)から判断して決めた総合的なテーマについての学習。教科のいずれかに特定せず学習すべきテーマを設定し,その下で比較的広い領域にわたった内容が学習されるという意味での総合学習であり,「国際理解」「環境」「情報」「人権」などの学習が該当する。
B合科的な指導に相当する学習。  

 このうち@は「はじめに子供ありき」であり,「志向学習」である。それに対し,ABは,「はじめに内容ありき」であり,「課題学習」である。そしてABのタイプは,全体として教師の敷いた路線を歩み,与えられたことをこなす学習である。
 しかし,いずれにせよ,体験活動を中心とした総合学習の実践は,これまでの教科の枠組みに固定された実践と異なり,積極的な意義を有している。


3 伊那小学校の実践

(1)学校の特色と教育課程

 伊那小学校の総合学習は20年ほど前から取り組まれている。
 教育課程の特徴として

@第1・2学年では教科としての学習は全くなく,総合学習と特別活動から成り立つ。総合学習は,「自然」「社会」「数」「言語」「表現」「運動」などの領域に題材を求め,できるだけこの全領域を網羅するように授業が展開される。
A第3〜6学年では,低学年をうけ,週3時間の総合活動と,教科学習,道徳,特別活動から成り立つ。総合活動は,教科などの学習の基盤になる側面と,教科などの学習で得たものを実地に生かし,統合するという側面を持つ。 

総合学習,総合活動いずれも半年から1年以上にわたる長期間の実践であり,学級単位で「材」を決定して,実践を行っている。


(2)低学年の総合学習の事例

題材「ヤギさんはみんなの友だち−忠組と白ちゃん−」

・飼育小屋の整備,遊び場作り
・餌代のためのアルミ缶回収を通して缶の数の計算。1カ月の餌の量の計算(たし算,かけ算)体重,食事量の変化(容積)
・白ちゃんへの手紙,獣医と手紙で相談「赤ちゃんを産んで欲しいな」(言語表現)
・白ちゃんの絵,白ちゃんの歌作り。 

 ヤギとの関わりで,生活科レベルの授業展開にとどまらず,「自然」「社会」「数」「言語」「表現」「運動」と多岐にわたった学習活動が行われている。飼育に対する様々な転換期やトラブルが生じた場合には,子どもたちに議論させたり専門家に尋ねに行かせたりして,問題解決能力を身につけさせるような指導を行っている。生産活動を通して,生きて働く学力を形成しようとする考え方がその背景にある。


(3)中・高学年の総合活動の事例

題材 「勤組お蚕さん−真綿からの糸取り・織物作り−」お蚕さん
  ・3年蚕飼育の体験→繭から糸を取り,織物にしたい」=1万匹の繭

※教科との関わり
・「お蚕さん1万匹物語」(お話,劇作り)の作成。(国語)
・桑畑の分布,郷土の製糸業の学習(社会)
・春・秋の生き物のくらし(理科)
・織物に対する思いの表現(音楽)
・糸車,織り機作り(図画工作)

 中学年の総合活動の「材」では,もの作りに関わるものが増加している。 高学年においては「リサイクルハウスの製作」「焼き物」「縄文土器と料理」など,学級・学校内にとどまらないダイナミックな実践を,年度を超えて継続的に行っている。


(4)総合学習・総合活動の評価

☆伊那小の学力観「生きる力」=@意欲に関わる学力+A情意的な学力+B知識・技能的学力
 意欲の具現化したものを「発想→構想→実践→自己評価」のサイクルと考え,そのサイクルを自分の力で回す中で,情意的な学力や知識・技能的学力が関わってきている。

☆日常の授業での評価の観点
 @子供が自らの意欲のサイクルを回しながら追究している姿
 A学習材と子供との望ましいつながり
 Bそこに働く知識・技能的内容

☆通知表は発行していない。


(5)伊那小の総合学習・総合活動に対する問題点と課題

○大単元を基にしたダイナミックな実践であり,子供の願いや想いを生かした実践である。
○学力を認知的領域に限定せず,生きる力・感性・意欲などの情意的側面にまで拡張してとらえている(信州教育のプラス面)
▲動物のみならず植物まで擬人化している。
▲総合学習の形態が部分的にパターン化している。
▲子供の願いや想いを無条件人認めることが学習の展開に結びつくかどうか。一定の教師の方向づけ・指導が必要。(特に低学年)
▲情意的側面や道徳と結びつけようとするあまりに心情主義に陥る危惧がある。


4 泊小学校の実践

(1)学校の特色と教育課程

  鳥取県中部の日本海に面した村立小学校。総合学習の時間は,各教科や特別活動・学級活動の時間から捻出


(2)総合学習の事例

☆総合学習=「子供の奥底にある求め」をよりどころに学習が展開するので,何よりも意欲を重視し,意欲こそ「学ぶ力」の核であるととらえ,知識・技能を獲得する力や生き方はこの意欲と一体化するものである。

☆「生きて働く力」=”学習への意欲””学習の仕方””豊かな心””生き方”の総体

☆総合学習の事例
 @栽培活動を中心としたもの
 A飼育活動を中心としたもの
 B創作活動を中心としたもの
 C研究・探求的なもの

低学年の実践では生活科を1つのコアとして,他教科と関連づけて総合学習を行っているものが多い。


(3)総合学習の評価「評価と援助」の視点

@できたことがその子なりに分かり,自分の言葉で想いを語れる。
Aその子のできばえを認める。プラスの体験を認め次の発展に生かす。
Bその子に何が残るか,何が語れるか,現在そして未来を想いながらたえず挑戦する。
C子供と友に教師が挑戦しているものの手ごたえの実感をつかむ。

 ※「関心・意欲・態度」や「知識・理解」では評価していない。


(4)泊小学校の総合学習に対する問題点と評価

▲総合学習の時間を教科学習や特別活動から捻出して行っているため,教科との関わりの深いテーマ(「材」)をどのように見つけだすのかが,教師の力量にかかっている。
▲研究・探求的なものは,取り上げた「材」の内容によって,成否が左右される。
▲極端な擬人化が見られる。



5 奈良女子大学文学部附属小学校の実践

(1)学校の特色と教育課程『奈良プラン』による教育=「しごと」「けいこ」「なかよし」の3領域

   「しごと」=人間としての幅を育てる
   「けいこ」=人間としての深まりを育てる。
   「なかよし」=人間としての結びつきを育てる。
  この3領域は相互に力動的・有機的関係をもって成立する。

(2)「しごと」学習の事例

☆「しごと」のねらい
 自然,人間,社会の真実の姿を求めて,その知見と視野を広げ,身近な現実の問題を追究して新しい社会生活のあり方を洞察させ,自己の生活態度・生活環境をつくりかえていく意欲と実践力を育てることを主眼とし,次のようなねらいを設定している。
低学年「ものを見る目・気づく力を育てる」 
中学年「ものごとを関係的にとらえる力を育てる」
高学年「自らの見方や考え方をつくる力を育てる」

☆学習環境の設定=教師の支援
・しごとの配時を多く。十分な活動時間の保証
・発表・表現の時間の十分な保証
・子供たちによる授業の運営=表現力・発表力の高まり

☆授業の形態
・独自学習→相互学習→独自学習→相互学習というサイクルで行う。
・子供の疑問から出発する徹底した追及活動と討論が特徴。学習即生活,生活即学習。
・いずれも,大単元主義でダイナミックな実践になっている。

(3)「しごと」学習の評価活動

☆指導における評価活動
@「その子」の理解に立つ評価に基づく活動
A「その子」のプラス志向をめざす評価活動をする
B「その子」にタイムリーな評価活動をする。
C「その子」の見方・考え方を学習に生かす評価活動
D「その子」の伸び幅をとらえる評価活動

☆評価の方法
観察・表現物・子供の自己評価・第三者による評価・日常的な会話・日記指導など多様な方法を採り,子供との全関係の中で行われている。

(4)奈良女子大学文学部附属小学校の「しごと」学習に対する問題点と課題

○生活科の原点としての側面。”価値ある体験”の経験により,認識が深まり,発表・討論によって子供たちは鍛えられ,表現力・想像力・論理的思考が高まる。
▲同校の実践を様々な制約のある一般の公立校にそのまま適用できるか。


6 おわりに

☆総合学習における評価観は,実践校によって多岐にわたっている。総合学習の評価については,指導要録や通知表での評価と授業における評価(形成的評価)を同一視せず,切り離して考える必要がある。

☆総合学習の実施→学校教育のスリム化を考慮し,新教科の趣旨に合致する内容を総合学習に取り込む方がよい。
  =カリキュラム開発の必要性


《考察》

 ここで論じられている3校の総合学習への取組みについて共通するところは,いずれも,生活にかえるような,ある1つの教材を核に,大単元を構想していることである。
 また,これまでの教科の枠にとらわれず,その教材に関わりのある教科の内容を総合学習の中に取り込んでいる。そうすることによって,おのずと内容の精選が図れると同時に,子供にとっても,教科の単元の中で考えるよりも意欲的に取り組み,体験をもとにした具体的な理解を得ることができる。
 さらに,いずれの取組みも,子供の情意を大切にし,願いや求めに基づいたテーマを追究する「志向学習」である。子供たちは自由に活動し,体験していく中で自分の思いを明確にし,意欲的に追求していくと考えられている。

 ただ,伊那小と泊小の場合,情意的側面を重視するあまり,極端な擬人化が行われていたり,子供の思いや願いを無条件に認めてしまったりして,学習の展開に結びつかない場面があることや心情主義的になることが,問題点として指摘されている。 その点,奈良女附小の実践には,子供の願いや思いを中心にすえながら,発表・討論とそのもとになる活動(調べたり,操作したり,考えをまとめたりといった)の中で,情意にとどまらない表現力,想像力,思考力の高まりが見られるという。
 
 笹原の見聞からもこれはとても納得できることである。子供の思いを大切にしている一方で,教師が願っている学習のねらいへと,子供たちが自然に高まっていくための効果的な支援がなされている様子が随所に感じられた。
 結局は,教師がどのように学習の流れを仕組むかが問題であり,その流れが自然と子供の意識の中から生まれるような支援が大切だということである。

 総合学習の理念を理解しないまま,カリキュラムを編成したところで,現行の教科学習の並べ替えをしたにすぎない。むしろどういう子供を育てたいかという教師の願いが学校においてどれだけ共通理解され,それを実施していくための総合学習を考えるべきである。

 そして,生きる力を高めるための総合学習を進めるには,単元を,さらには年間を見通した授業のデザインと,子供の意識が自然にその流れにのるような教師に支援が必要である。
 それは,本来これまでの教科学習の枠の中でも考えられ得たことであるが,教科の枠を取り払って考えることで,自由度の高い自分で考える子供の育成がより効果的に実現されるという考えから成り立っていると言えよう。



icon  目次へ