第2項 ネットワークを利用した共同学習を見てみよう




 国内の小中学校では,すでにかなり多くの学校が,インターネットに接続した環境を持ち,ホームページを開設している。また,民間のプロバイダ(インターネット接続サービスを行う業者)で教師がホームページを開設し,その中で,児童の学習活動を発信するという取組も成されている。

 文部省の「100校プロジェクト」「新100校プロジェクト」やNTTが主体になって進めている「こねっとプラン」など,ネットワークの活用についての実践も重ねられ,ネットワークを教育に生かすための先進的な取組は,あちらこちらで報告されている。 そこで,この項では,具体的にネットワークを活用してどのような学習が可能なのかについて見ていきたい。




(1) 関川プロジェクト

 関川は,日本一の豪雪地帯,新潟県の高田平野を流れる河川である。数多くの支流をもち,ナウマン象の発掘で有名な野尻湖も,この川の上流にある。

 関川プロジェクトホームページ


 関川プロジェクトは,この関川流域市町村の小学校が共同で進めている,ネットワークを活用した学習の総称である。関川に関わる歴史,地域による流れ方のちがい,環境のちがいなどをそれぞれの学校で解き明かしながら,一つの大きな教材に仕上げていこうとする試みである。

 本実践の特徴は二つある。一つは上越地域という限られた地域内での情報交換にインターネットを利用すること。もう一つは情報発信の手段として利用するということである。

 インターネットというと,世界中に広がる情報を手に入れるものという認識があるが,教育現場での活用を考えると,広い地域からの情報ばかりではなく,身近な地域の情報源としても活用していくことができる。しかし,インターネット上にある身近な地域情報は,まだまだ未整備である。そこで子供が調べたことを発信し蓄積していくことで,必要な地域情報の蓄積をはかっていくことを考えている。
 子供にとっても情報を発信する活動そのものが,主体的な学習活動を促すと考える。

 子供が作成した「中江用水」のページ


 実際の活動では,各学校の実態に応じて,関川に関わるテーマについて学習し,その成果をホームページ上で公開する。
 関川プロジェクトのホームページでは,「関川水系マップ」「中江用水(上越をうるおす用水)についての共同学習」「関川の微生物の観察」「関川の水生昆虫の観察」といった内容で,各学校の取組が発信されている。特に「中江用水」では,先生向けに指導案付きの実践事例が紹介してあり,ネットワークを活用した授業を構想する際に,大いに参考になる。



(2) 古代米プロジェクト 

 古代米とは,縄文期に日本で栽培されていた,赤,紫などの色の付いた米の種類である。祝い事があると赤飯を炊くのは,かつて日本人が赤い米を食べていた名残だともいわれる。この歴史に残る古代米を育てながら,米作りにたずさわる人々の苦労や工夫を体験を通して学ぼうという試みが「古代米プロジェクト」である。

 愛知県半田市立亀崎小学校のページ


 プロジェクトには,青森県千葉県愛知県岐阜県の小学校が参加している。各校では,気候に合わせて適当な時期に田植えを行い,その成長の様子を写真と文を使い,ホームページ上で発信する。各校の画像を集めたページを作成したり,リンクさせたりしているため,子供たちは自分の学校の稲の成長を,他の学校と比較しながら観察することができる。

 この実践では,子供たちは,生育場所と気候による稲の発育のちがいを,体験活動とネットワークを通して知ることができる。また栽培の過程でいだいた疑問について,プロジェクトを進めている他校の友達と,電子メールを通して解決しあうことによって,遠隔地の見ず知らずの友達と,交流が生まれるという利点もある。遠くの友達にもわかってもらえるような情報を発信できるよう工夫するため,表現力を高めながら主体的に学習に取り組める。

 子供の作成による成長記録がホームページ上で発信される。



 このプロジェクトに関わる教師は,社会科メーリングリスト“シンシア”(メーリングリストについては第1章参照)のメンバーである。メーリングリストによる電子メールのやり取りで,古代米の苗の入手法,栽培法から,どのような流れで授業を仕組むか,子供がどういう反応を示し,どういう活動を行っているかなどについて,情報交換を行っている。

 表では,ホームページによる情報発信と子供たち同士の電子メールのやり取りによって学習が成立しているように見える。しかしその裏では,どのような流れで学習が進んでいるかを見極め,子供の意識の流れにそった支援を行う教師が,授業をデザインしているのである。



(3) ネットワーク共同学習のよさは何か

 ネットワークを活用した共同学習のよさとしては,以下のような点が考えられる。

○ 子供たちが調べたことをホームページ上に公開していくことで,情報の蓄積をはかることができる。 
 過去の自校のホームページを見て,新しい内容をつけ加えたり,他校の実践と自校の実践を比較してとらえたりといった学習が,ネットワークを活用することで,きわめて容易にできるようになった。このような共同学習の実践が重ねられていけば,インターネットは豊かなデータベースになり得るだろう。

○ 他の学校との関わりができることで,子供たちは,意欲的に表現できる。  単に学習したことをまとめるのに比べて,「他校の友達にわかってもらおう」「感心してもらえるような情報を発信したいな」というような思いの高まりがあるので,大変主体的に学習に取り組むことができる。「誰に」「何を」「何のために」発信するかが明確になるので,相手にわかってもらうための表現の工夫,高まりがある。

○ 直接体験を通して,自分の見方,考え方を見直すことができる。
 コンピュータの教育利用というと,とかく机の前でキーボードをたたく姿を想像しがちであるが,このような共同学習では,バーチャルではない,現実の世界での体験的活動が,従来の学習以上に重視される。子供たちが,実際に自分の足で歩き,取材してきた内容が,発信される情報の中心になるからである。そういう直接体験を繰り返すことで,子供たちは,自分の生活を見直していくことができるだろう。 
 また,発信する情報としてまとめ直す過程では,これまで自分たちが調べたことを,もう一度見直すことができる。そこから,考えを深めたり,新たな視点で見つめ直したりできるというよさもある。

○ ネットワークを介して,共同で問題を解決していくことができる。
 発信されている情報について感じた思いや疑問などを,電子メールを使ってやり取りしたりホームページ上で公開したりしながら討論することで,自分たちだけでは解き明かせなかった問題でも,解決していくことができる。以前は,見ず知らずだった友達と知り合い,相互理解を深めていけるという利点もある。



 ネットワークを利用した共同学習では,常に情報をどのように受け取り発信するかを考える「自分」があり,ネットワークの向こうには自分の発信した情報を受け取り理解してくれる「相手」がいる。そういうネットワークの中にある人間性を考慮しないと,情報を手に入れられる安易さばかりがクローズアップされて,「コンピュータは疑似体験ばかりで,人間同士の関わりが希薄になる」というステレオタイプな結論に至ってしまうのである。

 コンピュータによるネットワークというのは,結局は「人と人とのネットワーク」なのである。「マシンの向こうに人がいる」という思いを大切にしながら,コンピュータの教育利用に取り組みたいものである。




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