第3章  情報活用能力を高める授業実践



 それでは,「『生きる力』の一端としての情報活用能力を高める」という視点に立ち,情報を選択・整理し表現することによって主体となる自分を見つけるための,授業のデザインはどのようにあればよいだろうか。

 本校のように,コンピュータの導入は進んではいるが,まだネットワークにはつながっていない(スタンドアローン)環境での実践と,近い将来にはすべての学校に導入されるであろう,インターネットに接続された環境での実践について,それぞれ見てみよう。



第1節 ネットワーク化されていない環境での情報活用能力を高める実践


第1項 「造形」で高める情報活用能力−奈良女子大学文学部附属小学校の実践−


6年けいこ(造形)   「デジタル・フォトモ」作りを楽しもう

(1) 題材について    

 デジタルデータをもとにした総合的な広がりのある学習の要素と,造形的な手作業による立体的な表現の楽しさを兼ね備えた題材である。

 デジタルフォトモとは,写真をデジタルに取り込み,風景,人物,動物等をジオラマ風に展開させた立体模型である。子供たちは,身の回りの風景や空間のおもしろさに着目し,遠近感を考えた表現を工夫する中で,自分の思いにあった画像を作り上げていく。できあがった画像をさらに立体的に組み合わせることで,その子なりの表現がさらに高まる。

制作途中のデジタル・フォトモ作品



 授業者は,「デジタル・フォトモ」作りの教材の価値として,以下の3点をあげている。

○ 自分の住む町並みや通学途中の道のりで感じる空間などのおもしろさに着目し,遠近感のある風景の要素を感じ取る学習が展開できる。

○ 一人一人のフィールドワークをもとにして地域学習や環境の学習へと総合的な学習活動に発展することができる。

○ 野外での取材活動やデジタルデータの活用が,実材料を手作業で扱う造形活動と結びつき,バランスのとれた学習がなされる。

 つまりこの題材でのねらいは,
「コンピュータを使って作品を作ることができる」
ことではなく,
「自分の住んでいる町やその周辺の景観に関心を持ち,その空間の美しさやおもしろさに着目する」ことや
「自分が気に入っている風景を,立体感が効果的に現れやすい視点で取材し,広がりを感じさせるように制作できる」ことにある。

 学習のねらいも展開も,まぎれもなく「造形」として考えられた学習であるが,情報を収集し,整理・選択し,表現することが目的になっている点で,実に情報教育的な取組であるともいえる。



(2) 授業の実際

 子供たちは,デジタルカメラを使って,自分が,おもしろいと思う風景を学校外で撮影してきている。それを,どのように立体化したら自分の思いに合うかを構想しながら,コンピュータの画面上で,風景写真の彩度,明度を補正している。

 また,人物,動物などの画像を編集,合成して,立体化するパーツを制作してきた。パーツは印刷して,台紙となる画用紙に切り貼りし,紙箱の台座の上に風景を立体化するのである。パーツの素材は特に制約がなく,風景写真の一部からキャラクターのイラストまで,子供が自分の思いで選択できるようになっている。



 公開授業は,一人の子供が,これまでの取り組み,本時のめあてについて語り,その子の作品のよさをみんなで見つけ合うところから始まった。思いを表すための「遠近感の出し方」「立体感の表し方」などについて,どのように表現したら効果的かを全員で考えた。その後,各自が自分のめあてを持って制作を行った。

自分の作品について語る子供
「おたずねはありませんか」


 すでに,画像を加工し終えた子供は,はさみやカッター,のりを手に,パーツの立体的構成に取り組んでいた。また,コンピュータを使って,パーツを加工したり,背景を手直ししたりする子供の姿もあった。



 コンピュータの画面上で行う操作としては,次のような活動が見られた。

・パーツとして使う人物や動物の写真やイラストを,風景から切り取って,拡大したり縮小したりする。大小5種類くらいの画像を用意して,思い通りの遠近感が表せるものを選べるように工夫していた。

・コンピュータグラフィックの手法を取り入れ,風景写真を,サイケデリックな色調に彩色したり,ゆがんで見えるように加工したりしていた。

・風景写真を何枚か組み合わせて,一枚の写真を合成したり,写真の中の一部を切り取って,他の部分と入れ替えたりしていた。「人が少なくてさみしい」というので,人物をたくさん張り付けている子供の姿もあった。


 子供たちは遠近感を高めるための画像の配置を工夫して,風景を再現していた。また,違う景色の部分を組み合わせて,新しい風景を作るなど,自分なりの表現を楽しんでいた。

切り分けられたパーツと背景の写真



 コンピュータの特性として,「簡単に描いたり消したりできるので,自分の思いに合うように画面上で何度も試してみることができる」ことがあげられる。「フロッピーディスクやハードディスク上にもとのデータが残っていれば,画面上でどう加工しても,もとの写真を呼び出せる」という安心感があるので,子供は思いのままに自由に表現活動をすることができる。

 型にはまらない自由な表現が保障されていることもあって,自分の思いにあった表現になるまで,楽しみながら,何度でも試行錯誤できた。



(3) この学習のよさは何か

 コンピュータを学習の中に取り入れる場合,どのような場面で取り入れるよう学習をデザインするかが,難しいところであるが,本題材の場合は,コンピュータを活用することが,教科としての学習のねらいに直接結びついているところに価値がある。コンピュータが,子どもの表現を高めるのに有効な道具として,適切にはたらいているからである。

 子供は風景をそのまま使ったりせず,自分の思いに合うように,カット&ペーストといった作業を繰り広げ,背景を自由に加工している。そういう活動の中にもその子らしさがよく表れていた。画像を加工する中でどう組み合わせたら,自分の思いを表すことができるかを考えていったのではないだろうか。

 また,コンピュータで単に画像を加工した作品ならば,いくら,様々な画像を組み合わせて奥行きを出したとしても,印刷してしまえば平面にしかならない。デジタルデータは,画面上では立体感があるが,しょせん2次元的な代物である。
 しかし,この題材では,画像を台座の上に張り付けて立体に再構成することで,表現に3次元的な広がりを与えているところに,おもしろさがあると思う。できあがった画像を,さらに立体的に組み合わせることで,その子なりの表現がより高まったと言える。作品の表現方法として,コンピュータの操作と手作業が,必要かつ十分に融合しているところもよい。


 子供の思いを引き出し,自由な表現をうながすという学習のねらいと,コンピュータの特性が見事にマッチした,大変すばらしい題材だと感じた。

 ただし,授業者自身は,「子供の意識は画像を加工するおもしろさに向いている」と考え,「作品を立体化すること」が子供の思いに即していたかは,単元が終わってからでないと,判断できないと考えている。あくまでも子供の思いに沿って学習を進めようと考えている,授業者の姿勢に感銘を受けた。



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