第2項 「しごと」の実践例


3年しごと   『気になる木』の『はっぱ』をふやそう −観光客がよく来る,奈良の町・大研究−



(1) 単元について

 この実践では,「気になる木のはっぱをふやそう」を題材に,5月から7月までの約13週のうち67時間があてられている。

 子供たちは,これまでにも同じ題材による「しごと」学習を行ってきている。1年生の1学期には「給食室ではたらく人」,2学期には「買い物や料理,掃除,選択をする家の人」,3学期には「お手伝い」を副題にして学習に取り組んだ。2年生では「学園前の町・大研究」を副題に,全員の子供に1時間の発表授業(最初の発表者となり,1時間の授業を進める)を2回経験させている。

 3年生では,『観光客のよく来る奈良の町』を1年間にわたって学習することによって,奈良の自然環境を生かした特色ある生活を,子供らが自力で自分のものにしていくことができると考えている。  



(2) 学習の流れ

 子供たちは,5月に「お花祭りのあった日の薬師寺」にでかけて,奈良の町に観光客を引きつける多くの史跡があることに気づいている。そして,観光客がよく来る薬師寺・奈良公園のしか・奈良墨の見学を通しての『気になること』について,自分なりの視点で考えをまとめたり,調べたりしてきた。見学の際には「〜ことを見てこよう」というような約束は,いっさいなかったが,子供たちは自分なりに持っている“観察眼”を発揮して見学に取り組んでいる。また,その後の追究も子供一人一人の思いに任されている。

 教師は,子供一人一人がどのような思いを持っているかを把握するように努め,同じような考えを持っている子供を関わり合わせたり,悩みを持っている子供がいることを他の子供に知らせて問題解決をはかったりするような,「支援者」の役割に徹している。


 子供たちは,「お花祭りのあった日の薬師寺」について『気になること』を自分で作った寸劇に表現している。一人につき1時間をあてて,その寸劇に対する質疑応答と対話活動による学習を繰り広げているのである。

 公開授業は,薬師寺金堂新築の思いを語る寸劇から,どのような願いを持って新築が行われることになったか,文化遺産である金堂を新しいものに変えてしまうことの是非,文化遺産とは誰のためのものかというあたりで討論がなされた。

子供の進行で学習が進む。
「おたずねはありませんか?」



「立て直している間は,見ることができなくて,がっかりして帰っていく人がいるのではないか」
といった3年生らしい発言や
「古い時代の建物を守るための文化遺産なのに,どうして新しい講堂を建てるのか」
「いつの時代の人のための文化遺産を作ろうとしているのか」
というような,かなり洞察の深い発言もあり,大変活発に意見交換が行われていた。


 この学習では,寸劇を取り入れることで子供の心に迫っている。問題を身近なものにとらえ,具体的な理解をうながしている。課題意識とそれを解決する意欲の高まりから,子供なりの文化遺産に対する見方,考え方が明確になってきている。 

 また,子供が授業を進め,質疑応答(奈良女附小では『おたずね』とよんでいる)を繰り返すことにも,子供たちの学習意欲を高め内面化をはかる上で,いくつかの効果がある。 友だちの発言と自分の調べたこととを,つなげて考えようとする姿勢が育っている。
 「木は腐りやすい」という発言に対して,「ヒノキだったら腐りにくい」「でも,どんな木だってくさるときにはくさってしまう」「ヒノキはくさりにくいといったが,〜したらくさってしまう」といった具合に,自分が調べたことを関わらせながら,友達の意見とのつながりで発言する力が育っている。


 また,賛否の分かれる学習の場を設定し,反対意見を述べるときに,どんな部分にどう反対なのかをはっきり示したり,反論する機会が保証されたりしているため,発言をためらわず,是非を素直に認めようとする姿勢が育っている。「聞き合い」の中で自分の思いを明確にすることができるのである。

 教師は助言者となり,学習の進行は全く子供にゆだねられている。しかし教師が子供の思いを把握しているので,学習の方向を予想し,流れに沿った発言ができるような支援を行うことができる。こういう学習が1年生のときから繰り返し行われているため,子供たちの見方,考え方の広さ,深さには,目を見張るものがある。

天井にのびる『気になる木』に『はっぱ』をつける子供



 総合学習は,学年を見通した学習課程を組み,学習の連続性が保証されたときに,子供たちにとってきわめて有効にはたらくと言えるだろう。また総合学習に取り組む姿勢として,様々なものの見方に対して,先生自身が固定観念にしばられないことが肝要だということだ。子供の自由な発想を生かし,互いの表現を受け入れ,認めあっていく中にこそ,「生きる力」の高まりがある。

 子供の興味・関心が教師のねらいとずれたとき,それを無理に修正しようとすると子供の学習意欲はそがれてしまう。それよりも子供の興味・関心が向いた方向に授業を展開していく方が,子供の自ら学ぶ力や表現力を高めるのではないかと考えられる。




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