第2節 奈良女子大学文学部附属小学校の実践


第1項 学校の特色と教育課程『奈良プラン』による教育


(1) 「しごと」「けいこ」「なかよし」の3領域

 奈良女子大学文学部附属小学校(以下奈良女附小)の平成9年度の研究発表会は,6月12,13日の両日に行われた。
 今年度の研究主題は「子供の表現と学習法」である。学習法といっても,教授の仕方を方法論的に探求するものではない。むしろ,子供の内面にある思いをどう具体化し,表現させるかが,とても重視されている。

全国からの参加者でにぎわう奈良女附小


 その教材について,どう考える自分がいるか,というような,「自分の存在を確かめるための学習」が繰り広げられ,その取り組みはまさに総合学習である。しかも,情意に流されず,その考えの根拠となるところも明らかにしようという姿勢が,先生からも子供からも伝わってくる。近年とみに叫ばれる,「新しい学力観」の源流がここにある。



 奈良女附小の学習法の特色については,藤岡秀樹氏(岩手大学教育学部)が,論文「小学校における総合学習についての研究−実践校の分析を中心に−」(岩手大学教育学部附属教育実践研究指導センター紀要7号,1997)の中で,次のようにまとめている。

 奈良女附小では,大正後期より児童中心主義に根ざす新しい教育組織を「学習法」と呼称し,その伝統を綿々と受け継いできている。そして,昭和23年からは学習課程を「しごと」「けいこ」「なかよし」の3領域に編成し,総合的な学習への取り組みがなされている。

 「しごと」は,学習する中で,自分の思いを明らかにし高めようとする子供を,教科という枠を取っ払って育てていこうとするものであり,人間としての幅を育てることを目的としている。いわば,総合学習の核に当たる部分である。

 「けいこ」は,人間としての深まりを育てることを目的とし,自分の思いの表現を効果的に行うための教科的な力を高めることに主眼をおいている。

 「なかよし」は,人間としての結びつきを育てることを目的とした,学級を解体した(4年以上)小集団による実践的な学習である。一般の学校における委員会活動や集会活動がこれにあたると考えればよいが,奈良女附小では学習課程の中に位置付けられている。

 これらの3領域が相互に動的・有機的関係をもってこそ,「学習法」は成立する。


 「表現力」は学習法の実践の根幹を成す。教科はもちろんのこと,その枠を越えて「しごと・けいこ・なかよし」の3領域すべて,すなわち生活そのものに深く関わりをもち,さらには,「個性」「自律」とも関わる重要性をもっている。ゆえに,表現力の育成,表現力への支援,表現力の活性化,表現の個性化などについて,それぞれの成果を具体的にとらえようとしている。

 奈良女附小では,以上のような教育構造に立って,子どもたちが日々一歩ずつ前進するよろこびに支えられて成長していく場を展開している。



(2) 「しごと」のねらい 

 「しごと」の学習では,自然,人間,社会の真実の姿を求めて,その知見と視野を広げること。また,身近な現実の問題を追究して新しい社会生活のあり方を洞察させ,自己の生活態度・生活環境をつくりかえていく意欲と実践力を育てることを主眼とし,次のようなねらいを設定している。

低学年 「ものを見る目・気づく力を育てる」
中学年 「ものごとを関係的にとらえる力を育てる」
高学年 「自らの見方や考え方をつくる力を育てる」


 「しごと」のねらいをつきつめていくと,生活科や社会科のねらいに通ずるものが多い。従って,この2教科は,奈良女附小では,「けいこ」の中に位置付けず,「しごと」の中に包括されるものと考えられている。



(3) 学習環境の設定

 「しごと」は低学年で週5時間,中・高学年では週4時間と多いために,十分時間をとって活動することができる。また発表・表現の時間も十分に保証され,子供たちの活動の意欲がそがれないような配慮が成されている。

 授業は,普段から子供たち自身の手で運営されているため,表現力・発表力の高まりがみられ,子供たちはのびのびと授業に参加している。教師は,子供たちの思考の流れを見据え,どのような学習の流れを仕組めば子供の意欲的な学習を促すことができるかというように効果的な支援を行うことに力を注いでいる。

 一見すると,子供たちが全く自由に学習しているように見えるが,子供たちの思いがどの辺にあるかを教師は十分に把握している。そして,子供の意識の流れを予想し,主体的に学習を進められるような支援を行っている。子供主体の学習でありながら,その裏には教師のねらう学習の流れがあり,なおかつ,教師は決して前面に出ることなく,支援者に徹しているというところに,奈良女附小の学習法のすごさがあると感じた。

 また,「しごと」学習は,いずれも,年間を通した大きな単元を核に進める,ダイナミックな実践になっていることにも特徴がある。




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