県外研修報告書

福井大学教育学部附属小学校の総合学習

富山市立五福小学校 笹原克彦


研究主題  自己を拓き,ともに生きる力を育む −学びの楽しさを実感し,互いに高め合う学習活動−



研究主題の具体化をめざした本年度の力点

(1)教科の枠を越えた学級・学年総合学習の実際と,そのカリキュラムの開発
(2)特別活動(主として行事)のよさを生かしたトピック総合学習の創造
(3)特質を大切にした教と科等学習の展開と二つの総合学習の関連


研究の歩み

 福井大学教育学部附属小学校(以下,福大附小)では,自己実現のある,教育のオープン化をめざして,平成4年より総合学習に取り組んできている。
 平成9年度からは,上記の研究主題を設定し,

○これからの激動する社会の中で,たくましく主体的に生きる力を,どう育てるか
○生きる力を育てるための,教師の構えはどうあるべきか

の二つを柱に研究を進めてきている。


たくましく生きるために必要な生きる力


 福大附小が,たくましく生きるために必要だと考える「生きる力」は,以下の4つである。

@美しいものや価値あるものに感動する柔らかな感性
A自分の内側からこみ上げてくる挑戦への活動のエネルギー
B自分で課題を見つけ,自ら考え問題を解決していく自発性・主体性
C他人を思いやる心や協調性

これらの力は学びの楽しさを実感した,互いに高め合う学習活動によって育まれると考えている。



「学びの楽しさを実感する」とは

 子供の発達段階を合わせて,次のように考えている。

低学年段階−学ぶことの喜びを知る(内面への受け入れ)
中学年段階−学ぶことの面白さを知る(共感・反発など感情的価値付け)
高学年段階−学ぶことの大切さを知る(学習の意義・重要性の認識)

 学びの楽しさを実感する授業づくりのために,具体的には次の課題が学習活動の中に見えてくる。

生活との関わり・接点がある学びであること
・できた,わかったという成就感,達成感がもてること
・自己の思いを十分に表出できること
・学習の集団の中で,自分の役割や存在感を持つこと


学びの楽しさを実感するための基盤となる力
「学びの楽しさを実感した,互いに高め合う学習活動」の創造のためには,以下のような学びの力が基盤になると考えている。

@ 学習を自分なりにとらえる力
A 達成と向上の意欲
B コミュニケーション能力や表現力
C 自分自身を振り返り,相手の思いを受け入れる姿勢



学びの楽しさを実感するための学習過程
@ 自分の問題をつかむ
  ↓
A 目当てをもって主体的な学習を追求活動を通して「できた」「わかった」
  「面白かった」という達成感や満足感をいだく
  ↓
B 自分の思いや学んだことを,仲間に表現する
  ↓
C 子供一人一人が集団の中で認められ,ともに練り,高め合うとともに,
 これまでの学習で生まれた,新たな課題に挑戦する。

 この学習過程の中で,授業づくりに共通した視点として次の3つが挙げられる。

  1. 子供たち一人一人が,おもしろそうだ,やってみたいと思うような魅力のある課題が明確であること(活動の必然性・解放性)
  2. 体験的・総合的活動の中で,主体的に活動する場が設定されていること(活動の体験性・総合性)
  3. 課題解決の達成感や表現することの喜びを,他の子供たちとの関わり(練り合い・高め合い)の中で味わう場面が設定されていること(活動の深化・発展性)

この3つの視点を,内面的側面・方法的側面両面から検討し,学習活動の中に適正に組織していくことで,「生きる力」がどのように育ってきているかを,検証してきた。




総合学習について

 福大附小では,総合学習を以下のように定義している。

 教科の枠を越え,教科の発展的展開の中で,あるいは,教科,道徳,特別活動の複合の中で,子供の興味・関心に焦点を当てながら,今日的課題性のあるテーマを設け,体験的・発展的活動を通して,柔軟な学習活動を組織し,子供の自立を促し,生き方を考えさせていく。

そして,総合学習で育みたい力として,次の3つを挙げている。

 探求する力   表現する力   練り合う力 


この3つの力は,生きる力として設定した「豊かな感性」「自主性・主体性」「活動のエネルギー」「思いやり・協調性」と密接に関連している。



「生きる力」を考えるとき,なぜ総合学習なのか

 現代社会は,高度情報化をはじめ,加速度的に変化している。
 一方で,いじめ問題等,人間性の回復を求める子供の叫びは,待つことが許されない状況にある。
 そこで,福大附小では,生活の中で生きてはたらく力を求める「総合学習」を重視し,この中に成立するカリキュラムの成立を目指した。それは,子供の体験の価値を明らかにすることであり,21世紀を生きる子供たちを支える「生きる力」を模索することでもある。

 「総合学習」は「教科等学習」の発展したものととらえている。したがって,それぞれの学習で育まれた力が,互いを支える力になると考えている。



研究の領域

 学級・学年総合学習
 1年間を通したテーマで行う。興味関心に基づいて体験的活動を主体的に展開していく。

 トピック総合学習

 「生きる力」との関連が深い学校行事や,特別活動などの全校総合,多学年総合をトピック総合学習として位置づける。



研究の成果

1 必然性のある学びによって,子供たちはより主体的発展的に追究するようになった。
活動の必然性には,教師側からの必然性(願い)と子供の側からの必然性(思い)がある。
 教科の学習では,学ばせたい内容がはっきりしているので,教師の願い(=必然性)も明確である。したがって,教師側からの必然性を,子供の実態と絡めて,どう子供の活動の必然性と結びつけるかが問題となる。
 一方,総合学習は子供たちの意欲・関心を基に単元を構成するので,子供からの必然性は設定しやすい。ここでは,教師側の設定の必然性(なぜこの総合学習が必要なのか)を明確にもつことが大切になってくる。
2 活動に体験性・総合性を設定することで,子供たちの追究はよりエネルギッシュになった。
3 学びの楽しさを実感させるためには,仲間との練り合いが必要である。
 深化,発展のためには,子供一人一人が学習してきたことを,どう振り返り,練り合い,高め合いながら,次の課題へとつないでいくかが大切になる。



今後の課題

1 教師側と児童側からの必然性をどう有機的に関連づけたらよいか。
2 主体的な体験活動をどのように学習過程に組み入れていけばよいか。
3 多様で,有効な練り合い活動の開発は,どのようにしたらよいか。




《考察》 
 
福大附小では,中央教育審議会の答申が発表になる,はるか以前の,平成4年より総合学習に取り組んでいる。教科の学習で身についた力をより高めていくことを考えたときに,必然的にそういう場が必要だと考え至ったことに,大きな価値があるように思う。
 
 また,子供にとって必要な「生きる力」を明確にし,それを付ける場としての総合学習の重要性を高らかにうたっていることにも意味がある。これからの時代に生きる子供にとって,「生きる力」が必要だからこそ総合学習に取り組んでいるのだという福大附小の考え方は,単純明快かつ力強い。
 単に「時代が求めているから」「中教審が求めているから」というような消極的な理由からではなく,真に子供に必要な力は何かを考え,一人一人の子供の歩みを見つめていこうとする姿勢を強く感じる実践であった。
 
 
福大附小の総合学習は,年間を通した大単元を構想しているところにも特徴がある。それは,教師の願いを基に構想されるが,4月当初に考える年間計画は一応あるものの,子供の願いに合わせて,どんどん変化し続ける。むしろ,「計画通りに進んだ場合には,教師の指導が色濃く出過ぎている」と考え,あくまで子供主導の学習となるよう,常に見直しが図られているようだ。
 主な学校行事も,「トピック総合学習」として位置づけられており,総合学習に取り組んでいるというよりも,学校生活のすべてが総合学習になっているといっても過言ではないように思う。
 
 
考えてみれば,われわれが現在取り組んでいることも,福大附小の取り組みと重なる部分は多くある。運動会,宿泊学習といった学校行事を,子供主導で進めることは多々あるし,社会科の学習では,教科の範囲を逸脱して,深く入り込むことがたびたびある。福大附小が「今後の課題」として挙げていることは,近年,富山市小教研社会科部会でも,しばしば問題になっていることだ。
 
 ただ,福大附小の取り組みと,これまでわれわれがやってきたこととの違いは,個々の活動について,ねらいをもってはいるものの,それらを総合的・有機的に関連づけてとらえる視点に欠けていたということであろう。また,子供が主体になることを徹底している点も特筆すべきである。
 
 例えば,運動会で,万国旗代わりの旗づくりから,プログラムの立案,グループ編成,賞状の作成,競技の運営まですべて子供の手でやってしまおうという徹底ぶりには,驚かされると同時に,共感も抱いた。卒業式は,どんな風になるのだろう?
 
 
これまでの学習も,これからの総合学習も,学習活動自体は,実は表面的にはそんなに大差はないかもしれないが,大切なことは,その学習活動の背後にある,考え方である。教師がどのような子供像を理想とし,どのように子供をとらえるかが,これからはますます重要になってくる。そして,子供の思いを生かし,子供の意欲関心に合わせた学習を仕組みながら,その背後には実は教師に願いが隠れている,というような学習のデザインが求められるようになってくる。そういう学習を実現するためには,子供の生きる力を育むと同時に,教師自身も生きる力を高めていかなければならないということである。


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